これまで、麺棒や麺切り包丁の選び方についてご紹介を続けて来ましたが、このそば打ち道具シリーズですが、今回ご紹介するそば打ち道具『延し台・麺台』に関して結論から申し上げますと、延し台として専用道具を新規に購入することはありません。
もちろん、ご自宅のテーブルにゴミ袋等を敷き、代用とすることも可能ですし、ご家庭のまな板の上でなんとか打つこともできるわけです。
しかしながら、趣味としてそば打ちを捉えるならば、やはり専用道具が欲しいというのが人情でしょう。
そこで、今回は、延し台としての機能を紹介し理解して頂き、ホームセンターなどで材料を探して適切にカットし、かつ、カッコイイ麺台の作り方までを、テーマとして進めてみたいと思います。
こうした趣味としてのそば打ちを楽しむ場合、その道具を自分の使いやすい大きさにしたり、工夫したりして、DIYとしての愉しみ方もあります。
せっかく与えられた貴重な人生なんですから、そばを打って食べるだけじゃなく、自分で作った道具で打つ愉しみも味わってみましょう。
延し台・麺台の基本知識
今回掘り下げてみたいのは、そば打ちのステップ『延し』で利用する台、つまり延し台です。
一度はそば打ちを経験した方なら、素材も感触も覚えているとは思いますが、ずばり一言で言えば白い木の板だったと思います。
建築用語でその意味のとおり『白木(しらき)』と呼びます。
この白木ってのが、なかなかクセもんで、表面は木の肌そのもの、ペンキやクリヤー剤、うるしなどが塗られていない状態で、つまり、水にも弱く液体は吸ってしまうため、通気が悪ければカビやすく腐りやすく柔らかいため、強度は弱いというウィークポイントがごっそりあります。
しかし、楽常のそば打ちでも、他の多くのそば打ち教室でもこの白木を延し台として使われているのには、理由があります。
延し台に白木材を使うメリット
そば生地を延して行く工程で、麺台に求められるのは、くっつかないこと、滑りやすいこと、そして、何より平らなことです。
この3つのポイントを備えているのが、木材であり、たまにキッチンのステンレスの上や、人工大理石を延し台として利用するケースがありますが、かんばしくありません。
- 生地から出る水分を微妙に吸ってくれること
生地表面から放出される微量な水分はしっかりと打ち粉で抑えて上げるのが最適ですが、打ち粉を越え出て来てしまう水分が張り付きの原因となります。これを木肌が吸収してくれることで延しがやりやすくなります。 - 木肌のざらつきが打ち粉のスペックを上げる
木肌というのは金属や人工の樹脂などと違い、表面を拡大すると凹凸があり、凹の部分にちょうど良く打ち粉が入り込み、生地との摩擦をちょうどよくしてくれます。これにより生地の伸びる動きを妨げないわけです。
そして、もうひとつ重要なポイントが、まっ平らということ。
麺台に適した材料とは
これは、木板ならば、なんでも平らなんではないか?と思われるかも知れませんが、そうではなく、例えば、杉の平板の場合、必ず節や木目が入ります。
柾目などの木材を使うと、ほとんど節が見られませんが、木目はどうしてもあります。
この木目の白い部分は、夏の成長期にぐんぐん伸びた部分であり、柔らかく、木目のスジの赤い部分は、冬場の未成長期にあたり、身がしまって硬いという性質があります。
つまり、数回、延し台として使ってしまうと、この柔らかい部分が凹み、硬い部分が凸となり、表面がぼこぼこして来てしまうのです。
性質が違う部位同士なので、湿気の吸い方や乾燥の仕方も変わり、年月が経てば木板は反り返ってしまいます。
これは、安定しているヒノキやひばであっても同じことが言えます。
定期的にかんな掛けなどをすれば、もちろん解決しますが、そんなことはやっていられませんよね。
そこで、その不安定さを補う、例えば棚板などに使用されている建材に、集成材というものもあります。
一般的に手に入れやすいのは、パインや赤松、米松などの集成材が多いですが、ヒノキや桐などもありますが、これは残念ながら延し台には適していません。
例えば、松やパインなどはヤニが出ますし、ヒノキは木目が揃っていないので表面の仕上げがよくありません。
また、集成材は細切れの木材をくっつけて板にしているという性質上、糊が使用されています。
糊の中でも、人の口に入ると過程した場合、有害、無害、それを素人が判断するのは難しく、やはり、集成材を麺台に用いるのは、あまり好ましくないと思っています。
では、どんな白木材が一番適しているのか?
表面が安定している木材で、真っ平らであり、ある程度の厚みも欲しいし、軽いことも重要。
それらをすべて合わせ持つのが、シナ材を表面に貼った、シナのランバーコアボードである。
延し台に最適なシナランバーコア
シナ?ランバーコア?と『?』だらけかと思いますが、単語として覚えてしまいましょう。
ここで木材の知識であるシナ材のことについて触れると長くなるので、割愛させて頂きますが、ランバーコアとは、集成材の表面に、一枚板をスライスしたものを貼り付けている新建材です。
シナのランバーコアの3×6(さぶろく)・・・つまり、3尺×6尺という意味で使われるのですが、メートルに直すと、1820mm×910mm(1800×900)となります。
約畳一枚分、ふすま一枚分の大きさを、さぶろくと呼びます。
建築や建築材料では基準となる大きさで、日本の建造物はこの大きさを基準にすべて作ってあると言って過言ではありません。
ちなみに、さぶろくの長い方の6尺側が一間という単位になり、さぶろく2枚分の面積が一坪となります。
楽常で使っている延し台は、この3×6を2つ切りにして正方形として3×3(910mm×910mm)を、一麺台として使用しておりますが、少々ご家庭で使うことを考えた場合は大きいサイズかも知れません。
あとで最適なサイズはお教えしますが、その前に、ホームセンターなどで材料探しをする際に、注意して頂きたい点があります。
実は、ランバーコアボードは一種類ではなく、表面材の違いや厚みなど、いろいろな選択肢があるのです。
ランバーコアを購入する時の注意点
まず、厚みですが、仮にしっかりとしたテーブルがある場合があると仮定したとしても、やはり、反りを考慮に入れ、15mm~21mmが適しているのではないと思います。
楽常が使用しているのは、6分(18mm)です。
もちろん、厚ければ厚いほど、反りに関しては安定していますが、その分重たくなります。
結局、延し台として大切なのは表面の材質なので、それぐらいの厚みがベストと考えています。
だいたい、シナランバーコア(3×6)18mmが、単価 ¥4000ぐらいだとすれば、少々安めの設定のラワンランバーコアがあります。
同じ厚みでも、¥1000安の、¥3000程度になるのではないかと思います。
しかし、このラワン材は、麺台、延し台として適していません。
ラワンは東南アジアで育つ大木で、広い木板を製材するには適しているのですが、木肌が荒くトゲが刺さりやすく、木目スジが広いので、打ち粉を余計に使用することになります。
赤みががった木質から白木とは言わず、一般的にベニヤと言われている廉価材となります。
少し高めの木板にはなりますが、絶対にシナを使っておいて間違いはありません。
また、女性の方がこの延し台を購入する際は、もっと薄いサイズがベストでしょう。
例えば、軽さを重視し、3~5.5mmの厚みのものを購入し、どうしてもこの薄いサイズだと反りが発生するのですが、毎度毎度テーブルの端っこに養生テープで四隅を留めてしまえばイイのです。
前述したとおり、表面の材質が大事なので、薄いベニヤをテーブルに貼り付けて使うイメージです。
この方法であれば、ご家庭のちょっとの隙間に普段はしまっておくことが出来ると思います。
延し台・麺台の基礎知識まとめ
どんな延し台の材料を選んだら、作ったらいいか?だいぶイメージが固まって来ましたね。
なに難しいことを考える必要はありません。
ただの木の板を用意するだけです。
売られている延し台の中には、下駄付きのモノや銘木を使ったバカ高い、クソ重いものがありますが、そんなもの必要ありません。
しっかりと手入れができる方にしか扱えない代物です。
さっと出せてさっとしまえる。
まずは億劫にならない道具で、「そばが食べたい、じゃ打とう!」というスタンスが、そば打ちの正しいスタンスであり、「打ちたいから打つ」だと、高価な道具集めが始まる傾向が強いようです。
楽しく打つには、道具にこだわり過ぎないことも大切みたいです。
では、延し台の材料に関する知識は一通り得られたところで、早速ホームセンターで材料探しに行ってみましょう。
ちょっと長くなりましたので、続きは次回の延し台を作るの記事で!